第2回MeDi-B’AIシンポジウム「メディアとダイバーシティ――メディアに女たちの声は届いたのか?」報告

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  • 主催:メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)
  • 共催:東京大学 Beyond AI研究推進機構 B’AI Global Forum
  • 日時:2023年11月25日(土)12:00~15:10(二部制)
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 情報学環・ダイワユビキタス学術研究館 大和ハウス石橋信夫記念ホール
  • 言語:日本語

 

 2023年11月25日、第2回MeDi-B’AIシンポジウム「メディアとダイバーシティ――メディアに女たちの声は届いたのか?」が、東京大学本郷キャンパス 情報学環・ダイワユビキタス学術研究館3階 大和ハウス石橋信夫記念ホールで開催された。

 今回のシンポジウムは、「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」の6年間の活動の成果と課題について考えるのが狙い。第1部「メディアのジェンダーギャップ解消は進んでいるか?」ではテレビ、新聞という伝統的メディアで、第2部「デジタルメディアにおいていかにジェンダーが問題となるのか?」では新しいテクノロジーの中で、どのようなジェンダーをめぐる課題があるのか、議論が交わされた。


第一部 メディアのジェンダーギャップ解消は進んでいるか?

モデレーター:浜田敬子(ジャーナリスト、MeDiメンバー)
ゲスト:岸田花子(民放労連委員長、フジテレビ労働組合執行委員)
    中谷弥生(株式会社TBSテレビ取締役)
    中村史郎(朝日新聞社代表取締役社長)
    林香里(東京大学理事・副学長、MeDi座長)
報告:白河桃子(相模女子大学大学院特任教授、MeDiメンバー)
   「国内外メディアの現状と取り組み」


 第一部は、テレビ、新聞など伝統的メディアにおけるジェンダーギャップ解消の現状と課題について議論された。

 まず、東京大学理事・副学長の林香里氏が、メディアにおけるジェンダーギャップ解消の重要性について話した。メディア企業におけるジェンダー平等は、コンテンツづくりの際の感性や発想の偏りをなくし、組織の意思決定プロセスの透明性を担保するほか、プロフェッショナリズムを十分に発揮できる安心で安全な労働環境を保障することにもつながる。同時に、女性の社会参画が進まない日本において、本当の意味での民主主義の実現という大きな課題にも直結している。

 では、実際にメディア企業ではどの程度、ジェンダー平等が達成されているのだろうか。また働く側はどのような課題を抱えているのか。第一部では、その国内外の事例を見ながら、課題解消への糸口を探った。

朝日新聞社、TBSテレビでのジェンダーギャップ解消の取り組み

 はじめに、朝日新聞社取締役社長の中村史郎氏とTBSテレビ取締役の中谷弥生氏が、各社の取り組みと課題について報告した。

 朝日新聞社では、2020年4月に報道や事業を通じた発信と、その担い手のジェンダー平等をめざすとして「ジェンダー平等宣言」を公表し、毎年5月に目標の達成度を紙面で公開している。2022年10月には、意思決定層の女性比率が伸び悩んだことを背景に「ジェンダー平等宣言+(プラス)」を策定。女性リーダー育成のための新しい数値目標を立てると同時に、目標達成のための具体的なアクションプランを計画した。

 2023年現在、朝刊の「ひと」欄で取り上げる人物、朝日地球会議の登壇者は女性が半数程度になり、男性育休取得率は20年度の12.1%から22年度は71.1%を達成。しかし管理職の女性比率は20年度の13.3%から22年度も13.5%と伸び悩んでいる。

 中村氏は「朝日新聞社のジェンダーギャップ解消の取り組みは新聞業界の中では先進的だが、そもそも日本社会の中だけでも新聞業界はかなり遅れている。理想に対する達成率はまだ山の二、三合目だ」と述べた。

 TBSテレビでは、職場のジェンダーギャップ解消のため、一般的には無休の産前産後休暇を有休で、また法定日数よりも長く付与する産育休制度や、社内保育園の整備、ジョブリターン制度、男性育休取得の推進などに取り組んでいる。局長候補が受講するリーダー研修にも積極的に女性を送り込むようにするなど、女性リーダー育成にも意識的だ。

 2023年4月の社員全体の女性比率は23.9%だが、24年4月の内定者の女性比率は56%。プロデューサーや局長など管理職の女性比率は直近10年で20%を目標にしているが、2023年8月で15.7%を達成している。ただし女性役員は歴代2人しかおらず、なかなか登用が進まないという現実もある。

 中谷氏は「目標の5割は達成しており、次なる課題は役員の女性比率を上げること」としつつ、そのためにはゴルフ、会食といった商習慣がいまだ残る日本社会で多様な働き方と企業の成長をどう両立させるかなど解決すべき課題が数多くあることを指摘した。

ジェンダーギャップが生む従業員の働きづらさ

 では、働く側からはメディア企業のジェンダー格差はどのように映るのか。民放労連委員長の岸田花子氏は、当連合会の調査を引きながらジェンダー格差がいまだあることを指摘する。

 2022年の民放労連の調査によれば、全国で女性役員のいない民放テレビ局は全体の63.8%、ラジオ局は全体の72.4%に上る。これを役員全体の女性の割合にすると3%程度にとどまり、テレビ・ラジオ全体の無期雇用者における女性の割合(25.7%)と大きくかけ離れていることがわかる。また男女の賃金格差も依然として存在し、在京キー局だけでも正規雇用者は女性の賃金が男性の82.1%、非正規雇用者で68.3%という数字だ。

 メディアで働く女性たちからは、ジェンダーギャップ解消が進まない職場で、長時間労働や出産・育児などにまつわる制度の不十分さ、管理職の意識、登用や評価の偏りが働きづらさにつながっているという声が上がっている。特に地方ではロールモデルの不在が顕著で、それゆえ女性登用や労働環境の改善が進まないという課題がある。

 岸田氏は、朝日新聞社やTBSテレビの取り組みを高く評価し、「業界の生き残りにはジェンダーギャップ解消が必須。目標設定と具体的な計画立案のもと、ぜひ二社と同様の取り組みを業界全体でしてほしい」と主張した。

事例から考えるメディア企業のジェンダーギャップ解消のヒント

 日本のメディア企業では、労働現場における女性比率が上がっても意志決定層の女性比率はなかなか上がらない。相模女子大学大学院特任教授の白河桃子氏は、海外のメディア企業が同様の課題をどのように克服してきたかを報告した。

 #MeToo運動、新型コロナウイルス感染症の流行、Black Lives Matter運動を経て、アメリカでは、性別、人種、障害の有無、社会階層などを含む多様性の推進に経営戦略として取り組むメディア企業が増加している。さまざまな企業が、組織の体制や登用する人材、コンテンツに登場する人の多様性を向上するための数値目標を示し、定期的に実績を公表。全米公共ラジオ(NPR)のキース・ウッズ氏は、メディアの役割は今ある格差を超えて多様な視点を伝えることであり、多様な人々に共感できる人物像を示すことだと述べている。

 事実、欧米諸国では、女性の管理職比率が4割以上という国も珍しくない。その背景にあるのは、日本とは異なる働き方への意識だ。NHKの山本恵子氏、アイスランドの国営放送の編集長、フィンランドの新聞の元編集長が登壇したトークイベントで、「メディアは24時間必要とされているのでライフイベントとの折り合いがつかない」という山本氏の言葉に、他の二人は「仕事か家庭かの選択を迫られるのは、職場の仕組みの問題では?」「日本と北欧では労働文化が違う」と指摘したそうだ。

 中村氏は、女性管理職比率の伸び悩みの裏には、そもそも「長時間働く」「家庭を犠牲にして働く」という管理職の働き方の問題があるのではないかと見解を述べる。それを受けて白河氏が、北欧諸国では夜勤は子育ての終わった世代が担当するなどシフトに工夫があること、フランスでは「ワーカホリックの人を管理職にしない」という声もあることを紹介すると、会場に大きなどよめきが起こった。

 また一般企業の多様性の実現について取材をしてきたジャーナリストの浜田敬子氏は、特に男性の中間管理職の意識改革が重要だと実感しているという。例えば、リクルートでは女性管理職の伸び悩みの原因になっていた管理職の要件定義を見直す実験をしたところ、当該部署で女性管理職が倍増し、男性も従来とは異なるタイプが候補に挙がるようになったそうだ。

 林氏は、アメリカではアイビーリーグの名門大学8校のうち、6校が女性学長であることに言及し、トップの女性がゲームチェンジャーになる例も決して少なくないことに触れた。そして、メディア企業は業界の生き残りのためにも、民主主義社会を牽引するためにも、女性たちの力が必要だというメッセージを出していってほしいと締めくくった。



第二部 デジタルメディアにおいていかにジェンダーが問題となるのか

モデレーター:藤田結子(東京大学大学院情報学環 准教授、MeDiメンバー)
ゲスト:板津木綿子(東京大学大学院情報学環 教授、B’AI Global Forumディレクター)
    李美淑(大妻女子大学文学部コミュニケーション文化学科 准教授、MeDiメンバー)
    河野真太郎(専修大学国際コミュニケーション学部 教授)

 
 第二部は、デジタル領域におけるジェンダーの表象と、デジタル空間で展開されているフェミニズムやミソジニーから、デジタルメディアにおけるジェンダー表象について考えた。

メディア文化における性差別と性暴力

 最初に、大妻女子大学准教授の李美淑氏がメディア文化における性差別と性暴力について発表した。

 駅貼りポスターからウェブサイト、動画サイトの広告、近年SNS上で炎上した三重県志摩市の「碧志摩メグ」、サントリー「頂(いただき)」などの広告動画まで、日本には女性を性的に描く表象があふれている。また、AI技術の領域でも、生成AIで顔写真をもとにさまざまなアバターを作成するアプリで、男性がパイロットや弁護士などの姿をしている一方で、女性は露出の多い姿をさせられるといったことも起きている。

 女性を性的に眼差される存在として描くこと、つまり性的客体化することは、社会において女性が人格をもつ人間というより「道具化」されること、そして「そのようなモノ(そのためのモノ)」だと認識するよう強いることであり、それゆえ有害だといわれてきた。こうした有害性は、伝統的メディアからデジタルメディア、AI技術に至るまで受け継がれてきているのである。

 女性が性的客体化されたイメージであふれる環境に生きていれば、私たちは女性を対等な存在として扱う感覚を失い、女性たちの思う/感じることに対して無感覚な眼差しを内面化してしまうとされている。李氏は、これがひいては、社会全体が女性の性被害に対して無感覚になったり、女性が性暴力を誘発したなどのレイプ神話を強化したり、暴力の正当化を助長したりといった女性に対する歪んだ認識を蔓延させる原因にもなると警鐘を鳴らした。

デジタルメディアとポピュラー・ミソジニー

 専修大学教授の河野真太郎氏は、近年のメディア環境におけるミソジニーについて発表した。

 ジェンダー/フェミニズム研究者でありメディア研究者であるサラ・バネット=ワイザーは、インターネット上のメディアやプラットフォーム上で可視化されるフェミニズムを「ポピュラー・フェミニズム」、それに対する反動を「ポピュラー・ミソジニー」と呼んでいる。

 ポピュラー・ミソジニーとは、ポピュラー・フェミニズムが提示するフェミニズムの言説に「傷」を負わされ、「能力」を制限されているとする感情のことで、その特徴はメディアを媒介にして増幅していくことにある。その典型と言われるのが、2000年代からアメリカのインターネット上で見られるようになった「自分が“非モテ”なのはフェミニズムやフェミニストのせいだ」と恨みを募らせる「インセル」たちである。

 バネット=ワイザーの論はアメリカのメディア環境を背景としているが、河野氏はことにポピュラー・ミソジニーについては日本でも同じ現象が起きていると指摘。その顕著な例として2021年のオープンレター事件を挙げ、SNSと既存メディアが相互に巻き込み合いながらミソジニーを醸成していくメカニズムを説明した。

女性ロボットのメディア表象

 東京大学教授の板津木綿子氏は、女性ロボットのメディア表象について発表した。

 犬型のペットロボット「aibo」、アザラシ型の介護用・ペット用ロボット「パロ」、ウェブサイトやデジタルサイネージのチャットボットなど、人間と関わりのあるロボットをソーシャルロボットという。ロボットに託されているタスクには本来ジェンダー性はないが、ソーシャルロボットの中には人為的に「女性」「男性」と性別を与えられているものがある。

 その際、偏ったジェンダー観をロボットに投影することは、実害にもつながりかねない。2022年にインドで行われた調査によれば、男女ともに約7割が「人種や肌の色といったAIロボットの外見が購買判断を左右する」、約6割が「AIロボットを女性として表象することが販売促進につながる」と回答。男性の約5割、女性の約6割が「AIロボットに女性性を与えることは偏見の助長につながる」と懸念している。

 ロボットのジェンダー表象は、社会におけるジェンダー格差を広げる可能性をも持つと考えられる。8カ国語が話せて異文化間の商談が得意なアフリカの「オメイフェ」、インドの9言語と38の外国語が堪能なインドの教師ロボット「シャールー」など、非西洋圏では知能に優れ、専門的な機能を持った存在として表象される女性ロボットもいる。板津氏は、これらの女性ロボットが、今後ロボットのジェンダー表象がどうあるべきかを考えるヒントとなるだろうと指摘した。

 3人のゲストの発表終了後は、ソーシャルロボットにおける女性性と代替性について、ポビュラー・ミソジニーを助長させないための既存メディアの在り方について、表現の自由と人権の問題などについて活発な議論が交わされ、新しいメディアにおいてもジェンダー平等や人権意識などが重要であることが確認された。

新しい時代のメディア表現とMeDiの課題

 2017年に発足したMeDiは、メディアで働く実務家と研究者などの専門家がともにメディア表現、およびメディアにおける性被害やジェンダーギャップについて考察する場を作ってきた。この6年で、その影響は見えない形で、しかし確実に、主に伝統メディアのなかで結実してきたといえる。

 ただし、第二部で確認したように、社会や文化の在り方、そして影響関係は新しいテクノロジーの中にも流れ込んでしまっている。MeDiは、新しい時代のメディアや表現に今ある格差や権力の不均衡を温存しないよう、これからもメディア表現について考える場作りに取り組んでいく必要があるのだろう。


報告「MeDi活動の振り返りと今後の課題」
小島慶子(エッセイスト、MeDiメンバー)
治部れんげ(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院 准教授、MeDiメンバー)


閉会挨拶
田中東子(東京大学大学院情報学環教授、MeDiメンバー)

報告者:有馬ゆえ(ライター)

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